“事実”をベースにすることで、子どもたちの疑問を育み、想像力を膨らませることができる。恐竜の「遊具」を確かな「教具」に仕上げた、東特別館長のこだわり。
2017.02.10INTERVIEW

 “恐竜といっしょにカラダをつくろう”というコンセプトのもと開発された、恐竜の世界を体感しながら体力や運動能力を高められる遊具「DinoWorld(ディノワールド)」。2014年に発売されて以来、大人気を博し、ジャクエツが手掛けた屋外遊具シリーズの中で最大のヒット作となっている。今回は、「DinoWorld」において、恐竜や植物をデフォルメしたイラストを制作するにあたってデザインの監修をした、福井恐竜博物館特別館長・東洋一氏に、当時を振り返りながら、監修のポイントやこれからの遊具が向かうべき未来について語ってもらった。
 
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東氏が恐竜・植物のデザイン監修をした遊具DinoWorldシリーズ
 
 

目指したのは、何気なく遊び、身体を鍛えながら、恐竜についての学びのきっかけを生み出せる場所。

―「DinoWorld」の制作では本当に密な打合せをさせていただきました。
 
 1年半くらいの期間に、20回以上の打合せをしましたね。最初はリアルなイラストにする方向性だったように思います。でも、子どもが対象であるならば、可愛らしい表情のほうが良いということで、デフォルメしていくことになりました。私が終始強くお願いしたのは、たとえデフォルメしたイラストだとしても、正しい“事実”に基づいた表現をするということ。ジャクエツさんのものづくりの素晴らしい点は、触れるもの全てが初体験となる子どもたちの環境に〝本物〟を用意し続けているところです。そこは本当に共感できます。このプロジェクトでも、確かな教材となる遊具をつくるお手伝いができれば、と尽力させて頂きました。
 目指したのは、何気なく遊び、身体を鍛えながら、恐竜についての興味を膨らませてもらえる遊具です。恐竜って、当然、現存はしていないけれど、決して遠い存在ではなく、どちらかといえば気になる存在のはず。だからこそ、気軽に触れられる環境があれば、それがスイッチとなって、「なんで恐竜って地球上にいないの?」とか「なんでこんな形をしてるの?」とか「なんでこの色なの?」などの疑問が生まれてきます。遊具に込められた“事実”が、想像力を膨らませ、理科などの勉強を面白く感じることに繋がっていくのだと思います。でも、“事実”がちゃんとベースになっていなければ、そういった繋がりは恐らく生まれにくいでしょう。
 
 
―“事実”をベースにするために、どういった取組みをされたのでしょうか。
 
 しっかりした事実をベースとするために、まず、対象となるエリアを決めましたね。身近であることから、アジア大陸を選びました。そして、時代については、三畳紀・ジュラ紀・白亜紀を選択してもらいました。年代にすると、今から約2億4000万年前から6600万年前です。その頃のアジア大陸には30mを超える大型の草食恐竜から、ハトくらいの小型恐竜まで、様々な恐竜が生息していたとされ、非常にバラエティーに富んでいます。
 その舞台で活動していた恐竜をデフォルメしていく中で、できる限り、事実に基づいたイラストを追求してもらいました。形状で言えば、指の本数や足の長さ、または特徴的な部位などを反映してもらいました。例えばマメンチサウルスの尻尾のコブ。竜脚類の中で最も長い首を持つ種類なので首の長さが注目されますが、尻尾の先にはコブがあり、イラストへ表現してもらっています。
 
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化石の模型を手に解説する東氏(写真右)と、プレイデザインラボ プロデューサーの杉田氏(同左)
 
 
 

「どうして現代には、恐竜はいないの?」素朴な疑問が、植物と恐竜の密接な関係を知るスタートになる。

―皮膚の柄においても、大変、興味深い表現に仕上がったのではないでしょうか。
 
 柄については、すでに世に出ている図鑑やイラストなどでは様々な表現がされていますが、そもそも明確な根拠はないんです。今生きている動物から連想して作っているものが多いです。例えば、シマウマの縞模様には、外見的に動きがわかりにくくなり、肉食動物から逃げる際に効果を発揮する効果があると言われています。そういう意味で、草食恐竜の柄に縞模様を使ったりすることもあるのです。ただし、稀に、皮膚が残った化石が発見されており、そこから柄のパターンを採用したりすることもあります。
 皮膚の化石に近い内容として、羽毛の化石に基づいた表現を、オビラプトルの身体のデフォルメに採用してもらいました。オビラプトルは、身体に羽毛が生えた恐竜であり、恐竜と鳥類を結ぶ接点として貴重な存在です。古生物研究とは、まだ解明されていない進化のプロセスを埋めていく学問であり、進化の流れに影響を与えるものは非常に重要な研究となります。昨年、私達が発表した「フクイベナトール」も、羽毛恐竜の流れの発端に当たる存在であり、大きな価値が生まれています。
 
 
―恐竜そのもの以外に、装飾パネルの植物イラストについても監修をいただきました。
 
 開発担当者から「遊具の世界観として、恐竜がいる森のような風景を作りたい」というお考えを聞いた時、非常に良いアイデアだと思いました。そこで、三畳紀、ジュラ紀、白亜紀の時代に自生していた代表的な植物を選ばせてもらいました。その中でもイチョウは、子どもたちに対して面白い影響を与えているのではないかと思っています。イチョウは現代でも現生していますが、今のイチョウがハートのような形をしているのに対して、恐竜時代のそれは、葉っぱが、四、五枚に分かれていました。進化の中で姿を変化させたのです。子どもには、ぜひ「なんで今のイチョウと違うの?」と疑問を抱いてほしいですね。
 植物の進化というのは、恐竜の進化と密接な関係にあります。最近の学説では、ジュラ紀後期から被子植物が出現してきたと言われています。それまで、花を咲かせる植物は存在しなかったのです。従来、ソテツ類や杉を食していた草食恐竜は、新しく登場した花を餌と捉え、身体を進化させたことでしょう。花が登場してくると、昆虫の個体数や種類が増えたと言われています。そうなると、今度は、昆虫を食べるために、恐竜にとって空を飛ぶ必要性が生まれたのです。それで羽が進化したと言われています。さらに、恐竜が地上で走る際、バランスをとるために必要だった尻尾がほとんどいらなくなり、短くなり、尾羽が付いたとされています。そんな知識を得るきっかけが、この植物のイラストにあったりするわけです。
 
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三畳紀後期に繁栄したシダ類の仲間、ハウスマニアを模したパーツ
 
 
―恐竜頭部のデザインでも、様々なアドバイスを頂きました。
 
 ティラノサウルスの頭部化石をモチーフにしたパーツのことですね。遊具の部位の中でも、子どもたちに人気があると聞いています。骨格の図面を見本に設計図を作られましたが、当初、安全面などを考慮された結果、事実とは若干異なる形状のものになっていましたので、多少アドバイスさせて頂きました。三つある穴は、前面についているものが、空気を取り込む穴。真ん中が目です。後部にあるのは筋肉の穴ですね。DinoWorldの開発では、子どもたちがくぐるための大きさや、上に載っても壊れないための強度などを確保したいという思いを持ちながら、私の意見を最大限に取り入れてくれました。
 

ティラノサウルスの頭部化石を模したパーツ
 
 
―想像力が膨らみますね。現在、新しい展開にもご協力いただいています。
 
そうですね。2016年に生まれた新しいバリエーションのイラスト制作でも、引き続き監修をさせて頂きました。今回は、ティラノサウルス、ブラキオサウルス、アンキロサウルスといった、よりポピュラーな恐竜をモチーフとして採用してもらいました。さらに人気が出てくるのではないでしょうか。ふと思ったのですが、恐竜、植物(生息環境)、と来たら、次は、足跡や卵といった恐竜に付随するものを遊具にして展開するのも面白いのではないでしょうか。ひとえに足跡といっても、恐竜によって異なります。卵も、細長いものや小さいものなど様々な種類があります。子どもたちが、更なる想像力をふくらませるきっかけになるのではないかと思います。
 
 
 

鯨の化石が夢を導いたように、時代に合わせ、想像力を膨らませる機会を提供していく使命が、私たちにはある。

―最後に、東特別館長が恐竜を研究することになった経緯を教えていただけますか。
 
 小学校5年生の時、出身地・広島県庄原市を流れる西条川へ化石採集に行きました。そこで、鯨の化石を発見したことが最初のきっかけです。山から鯨の化石が出てきたことには非常に驚きましたし、感動しました。やがて福井大学へ入学し、卒業すると、小学校教員を経て、福井県立博物館(現・福井県立歴史博物館)準備室の配属となり、開館後、地質学学芸員に。そして、1982年、手取層群で鰐の化石が見つかったのです。これが後々、手取層群で恐竜が発掘されていく始まりとなりました。
 思えば、当時、住んでいた場所は、今のように周りにアミューズメント的な施設は何もありませんでした。でも、自然は満ちあふれていました。想像力を刺激してくれるものが豊富に存在しました。その点、今の子どもたちの環境はどうなんでしょうか。家の中で遊ぶ道具はたくさんあるようですが、屋外となると、なかなか遊ぶ場所は探しにくいです。スマホのゲームに導かれて出た屋外は、果たして、想像力を膨らませてくれる場所なのでしょうか。これからの遊具に課せられた使命は大きいと思います。
 
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